口腔がん検診と言えばこれまで視診・触診が主な方法でした。つまり、お口の中を目で見て、触ってみて癌がないか確認する方法です。視診・触診だけでの口腔がん発見率は68%と言われて、この方法で「おかしいな?」と思う癌は残念ながら既に進行している状態です。
アメリカでも過去は視診・触診だけの検診が主流だったようですが、発見が遅れた患者様からの訴訟が増え、早期発見率を向上させる為にアメリカ政府の助成を受け、ベルスコープの販売元のLEDデンタルの創設者Peter Whitehead博士と、カナダのブリティッシュ・コロンビア癌センターと共同研究、開発されたのがベルスコープの初期モデルです。
現在ベルスコープは、世界23カ国で13,000名以上の医師が使用しており、2,500万件以上の症例があり、WHO(世界保健機構)にも認められた装置です。
写真:ベルスコープ(販売元LEDデンタルHPより)
ベルスコープの特徴
ベルスコープは光の特性を利用しています。
自然界には様々な光があり、これらの色は波長の長さで決まります。短い波長の光は青く、長い波長の光は赤くみえます。これらの光は人にあたると図のように、短い波長は表層に留まり、長い波長は深層部まで到達します。ベルスコープは400~460mmの波長の青色光を使います。
人の体内にはコラーゲンなど、緑色の蛍光を発光する物質があります。ベルスコープの青色光は、これらの物質の緑色蛍光を引き起こします。ところが、炎症や癌細胞などがある場合は、これらの蛍光する物質が減少し、血液などが青色を吸収する為、蛍光が減るという現象が起こります。
これらの光の特性や、光の反射、散乱、吸収などを組み合わせて、細胞異常を見える化する装置がベルスコープです。
実際にベルスコープの青色光をあてると、正常な組織は青色の反射と自家蛍光で青緑色に、炎症やがん細胞などの異常細胞は青色光を吸収し、自家蛍光が減少することから黒く見えます。下の写真の通り、肉眼では分かりにくいがん細胞も、このようにベルスコープの光をあてると発見されやすくなります。
通常光とベルスコープを使った写真。黒い所が細胞に異常がある部分です。
(写真提供:ベルスコープ販売元LEDデンタルHPより)
ベルスコープの有効性
ベルスコープの有効性について検証した研究論文も多く発表されています。以下数例ご紹介します。
口腔組織の蛍光可視化の為の簡素な装置(ベルスコープ)について(Pierre M. Laneら共同研究、2006年3・4月、Journal of Biomedical Opticsより)
全60例のうち、
正常組織 6例:100%蛍光可視化の保持が見られる
異形成&上皮内癌 11例:1例(9%)のみ蛍光可視化の保持が見られ、残り10例(91%)は蛍光可視化の消失が見られる
侵襲性扁平上皮癌 33例:100%蛍光可視化の消失が見られる
口腔内の潜在的悪性疾患および良性角化症検出における自家蛍光可視化装置(ベルスコープ)の検証(K.H. Awanら共同研究、2011年、Elsevier Ltd.より)
全126人の患者のうち
白板症/紅板症(前がん病変)70例
口腔扁平苔癬 32例
慢性増殖性カンジダ症 9例
摩擦角化症 13例
粘膜下線維症 2例
126症例中、83%の105例で蛍光の消失が見られ、生検の結果、44例に口腔上皮異形成が確認された
VELscopeは前がん病変や、他の口腔粘膜疾患の確認には有用だが、この装置のみで良性病変か、悪性病変かの区別は難しい。
ベルスコープを用いた早期口腔がんの切除(東京歯科大学 野村教授、柴原教授共著、2013年、Elsevier Ltd.より)